2022年度大河ドラマ 第25回 感想メモ
愛も憎しみも全て捧げた我らが鎌倉殿・源頼朝が死の淵にたっています。というわけで追記から。
■多解釈させる回
今回印象的だったのは、「余白」が多かったことです。解釈させるお話が多かったです。
二つ、気になるところがありました。一つは頼朝の死。もう一つは時政の「八重」。
*頼朝の死
「餅が喉に詰まったんじゃ~!」
「私が」
餅を喉に詰まらせた頼朝の背中を殴打して餅を出す義時、救急救命士の資格がありそうです。いや、餅に縁のある彼のこと、前にも誰かが餅を喉に詰まらせたことがあるのかもしれません。伊東の爺様か? だったら可愛い。
頼朝はこの最後の瞬間、ようやく北条家の家族になりました。長年出席してこなかった北条家の法事に顔を出し、おそらくまったく振り向かなかったであろう義弟・時連の餅を食べて。
なんとなくですが、頼朝は24話で蒲殿や大姫と一緒に死んでしまって、今は老人ホームで限られた人と余生を送っているかのような印象を感じます。
反面、義時の態度が不審です。
「喉が渇いた」
「姉上はここに」
笑いながら水を持って来るために去っていく義時の透明な表情。梵鐘の音とともに水を持って来て、「稲毛殿が御礼の挨拶をしたいとおっしゃっておいでです」と姉の注意を頼朝から離す。頼朝が水を飲んだ時のBGMの入り方はまるで、頼朝が死を選んだので、義時が泣きそうになる感情を代弁しているかのようです。そのあとの義時の表情が人を看取るかのように透徹していて。最後のシーンでは、彼は、何かを報告でもしているかのように祠(墓)に祈っています。
義時がさらに大人になるために、まだ無邪気で頑是ない頼時をもっと守れるように、自分を縛り付けて複雑な感情を抱いていた義兄から心の痛みを激しく感じつつも自分を解放し、兄や祖父、亡き妻たちの仇を討ったとも取れる演出です。
一方で、脚本は違います。
頼朝は精神的な錯乱に悩まされており、冒頭から全成の煎じた薬を飲むなど、体調面も不調気味であったようです。ただ、動けてしまうので動いてしまう。
脳血管疾患という説もTLで上がりましたが、ただ脳血管疾患と単純に言い切ってしまってもいらぬ誤解を与えるだけなので*1、「不調」で済ませておきます。
餅を喉に詰まらせてしまったのもおそらく不調のせいであり、落馬したのも手を見ていることから手の不調のせいでしょう。ただ、もともと致命的な身体的不調のために落馬をしたのか、精神的不調が麻痺を引き起こして、落馬のために死に至る怪我をしたのか、そこはわかりません。
とまあ、様々な解釈が成り立つ病床のつき方でした。これは、ドラマの中で義時と頼朝の関係をどう見守ってきたか、頼朝や義時をどんな人物だと捉えているかで変化する、万華鏡のようなくだりであったと思います。
*時政のボケ……?
「飯の支度はできとるかな、腹ペコなんじゃ八重」
「父上?」
法事で一家集合。しかしながら時政は比奈ちゃんを八重と言い間違えてしまいます。
とうとう耄碌がはじまったのかもしれません。なんだよ!時政はこれから活躍するのに。これから起こる全てのことが、おじいちゃんの耄碌によって引き起こされたのだとしたら心底心が震える〜〜!!!
一方で。直前にりくさんや他の北条家との間にこんな会話を。
「義母上も」
「あなたに母上呼ばわりされる筋合いはございません!」
「始まった」
「良いではないですか舅の奥方なんですから」
北条家の上の姉妹(政子・実衣)は義時の新しい妻・比奈ちゃんを庇います。しかしりくさんは納得しません。
「そもそもこちらは比企の血筋!」
「母上、そんなことを言っている時ではないのですよ」
「比奈さんは北条と比企を結ぶ架け橋なんですから」
「参りましょう!」
弟の時連まで比奈ちゃんを庇い、渦中の義時は呆れかえる始末(ただ、夫としては比奈ちゃんを表立ってかばわないこの態度はどうかと思う)。その直後での時政の発言なのですよね。言われたことを三秒で忘れてしまう耄碌っぷりでもないかぎり、直前に「比奈」と聞いている女性を「八重」と間違えるのは結構「何かありそう」です。じゃあそのくらい耄碌しているのかというと、時政はわりとピンシャンしています。娘婿の頼朝より元気そう。
さて、私は比奈ちゃんをさておくと、りくさんが家族全員からいじめられている構図に見えてしまって、「でもさあ!りくさんの話も聞いてあげてよ」とりくさんを庇いたくもなりました。
その気分を前提に、愛妻が子供達から突き上げにあっている時政の気持ちを考えてみると、比奈ちゃんにボケたふりをして嫌味の一つや二つも言いたくなりそうです。
義時の前妻の八重さんは時政にとって妻の妹(義妹)であり、義時と結婚する前から「八重」と呼び捨てにし、義時が振られた際には「結婚してほしかったな~」というほど見知った仲でした。そんな彼女に比べて比奈ちゃんはおそらく見ず知らずの存在であるのみならず。
「わしが……流した」
比企能員が蒲殿に謀反をそそのかしたという噂を流してしまうほど比企が嫌い。当然です。曽我兄弟の一件で比企に足元をすくわれそうになったのですから、時政としては腹が立ったことでしょう。
比企のお嬢さんと義時が結婚していることに関して、時政も何がしかの感情を抱いていそうです。……と、ボケとも悪意とも感じられるシーンでした。
悪意であることを比奈ちゃんが感じ取っていたなら、
「雛遊びの雛人形のようにかわいい、比奈でございます」
という返しは、「自分は雛人形のような存在ですから、北条に対する悪意はありません」と言い返しているようにも見えます。
ただなあ。義時は比奈ちゃんにたいして砂糖ドバドバ垂れ流すほどに甘くて優しい反面、恋愛感情は無いのだと感じさせる描写でした。まさに美しい大きな人形を愛でる人のような。
愛していたら「何をおっしゃるのです義母上!」ともう少しかばってもいいと思うのですよね。代わりに政子や実衣、時連がかばうはめになり、それが家族全員がりくさんをいじめていると見られかねない構図を作っているような。
■その相手でいいのか、頼時
比奈のしんどい嫁生活を支えているのは、意外と夫の最愛の息子・北条頼時15歳かもしれません。
「母上って呼ばないで」
「なんとお呼びすれば……」
「姫でいいですよ、姫で」
「おかしいでしょう」
ここで義時がニコニコ笑う穏やかな時間よ……。ギスギス法事とは大違いです。
頼時が義時といる限り、比奈は夫の自然な笑顔を引き出すことができます。義時の前で、まだ子供の頼時をからかって遊ぶのは、比奈ちゃんにとって北条家にいて許されると感じるひと時なのではないでしょうか。
さて、金剛が元服しました。なのでこれからは北条頼時と名乗りだします。三代執権となる「北条泰時」になるまでには、まだ時間がかかるようですが。
我々が赤ん坊から見ていた金剛は、笑顔が素敵で背が高く聡明で理知的で穏和で、……全く空気を読まない隠れ唯我独尊的性格に育ちました。おう。これを王子様気質というんだな。十年以上一人っ子を続け、父と母からあふれんばかりの愛情を受けて育っていれば王子様気質に育つのは当然でしょう。
ただ、この王子様、父母の薫陶を受けすぎる。
*重忠、変なのに懐かれる。
柱を拭く雑巾も史実上のイメージカラーである緑*2の頼時ですが、畠山重忠にお熱のようです。声が聞こえただけですぐ振り返る。
「畠山殿」
「いかがした」
「考えたんです、御家人の中で一番は誰なんだろうって。腕っ節の強さでは和田義盛殿。知恵が回るのは梶原景時殿。人と人をつなぐ力は、私の父。しかし、全てを兼ね備えているのは、畠山殿だと私は思います」
「くだらないことを考えるのはよしなさい」
北条頼時、叔母の法事で畠山重忠にTPOをわきまえず盛大告白。きっとこの法事を主催した稲毛重成(愛妻家)はいい人だったので穏やかに済んでいますが、普通なら「ぽかーん」「……?」となったでしょう。
「餅を丸めるのもお上手なんですね」
法事ではちゃんと父の弟である時連の隣に座り、行儀よくしていた頼時でしたが、そうでなくなると重忠のとなりを死守し続けます。そして訳のわからないことにも感心しだす。
義時の執着の強さと八重さんの情の激しさが見事にミックスされたな。……父さんがくれた粘着気質、母さんがくれた情の激しさだな。
八重さんのようにどこまでもまっすぐで、空気を読もうとせずに他人の法事で好きな人を褒め称える。しかも、義時のようにしつこく激しくアプローチする。好きな人から絶対離れない。
空気を読まない唯我独尊的・独善的気質、しかも粘着気質という頼時の欠点が見えてきて面白かったです。親からちゃんと受け継いでいるのがさらに面白い。
ただ頼時はいい義叔父さんに恵まれたと思います。重忠は義理の甥を突き放さないで「くだらないことを考えるのはよしなさい」と諭しているのです。
頼時がもし公の場でTPOをわきまえず変なことをしてしまったら大変です。厳しくも愛情深いシーンだなと思いました。
きっと金剛は母を失った後、父の手ひとつで育てられたのではなく、義村に様子見がてらちょっかいをかけられるだけでなく、重忠、そして名前が挙がった義盛や景時の人となりを観察できる程度には彼らの近くで育ったのでしょう。
*未来の上総殿
とはいえ、頼時の「初恋(?)」は無残な終わりを迎えることが決定しています。この感想メモを始めるきっかけとなった上総広常の死ですが、同じ運命が重忠を待ち受けているからです。広常の場合、義時は大きな薫陶を与えられ個人的に親しい、という程度の仲でしたが、重忠と頼時の場合は違います。
頼時は祖父の命令を受けた父が重忠を殺すところを見なければなりません。見るのかどうかはわかりませんが*3、少なくとも祖父や父に逆らうことが何もできずに、父の手が自分の慕っていた人の血で真っ赤に染まるというのは、今の頼時の天真爛漫な姿を考えると、辛い以上の何かがあります。まさにこの世に現出した修羅道を生きるようです。
さて、そんな重忠は今日も元気に死亡フラグを積み上げています。
りくさんの標的にされている重忠ですが、今度は優秀な人あるあるで法事の主催者である稲毛重成よりも目立った働きをしています。
重成がこれを見てどう思ったかはわかりません。温和な性格として書かれているようなので、いまはありがたいとおもうだけで一切気にしていないかもしれません。でも、もし何かのバランスが崩れたら、愛妻の法事で自分ではない人が一番働いていたことに心の引っ掛かりを覚えそうです。
りくさんにも重成にもタネをまきつつある重忠。どうなっていくのかが心配です。
■Deathゲームが始まるよ!
意味深なことに頼朝が落馬した途端、鐘の音が鳴り始めます。
聞こえたのは、政子、重忠、頼家、義盛、義村、広元、景時、能員、りくの9人。
聞こえていないで画面にメインで映っていたのは義時。
また、一番聞こえなければいけないはずなのに聞こえなかったのは安達盛長。
これが何を意味するのか、今後の展開をまたないとわからないのですが……。
今まで予習したことから考えてみると重忠、景時、能員、義盛、りく(となると自動的に時政も追加されます)が含まれているので、「北条(義時)による有力御家人排除」の中心メンバーと思われます。
これはおそらく義時の敵味方関係なく、これからの「パワーゲーム」の参加者を示すものなのでしょう。
政子は義時の味方でい続けました。広元は戸惑いながらも北条家の味方をしつづけます。義村は、台風の目となって景時を追放、分家であった義盛排除には義時の力を借りています。頼家は景時と能員という有力な後ろ盾を失ったため、北条氏に惨殺されます。
安達氏は北条氏と上手い付き合いをし、泰時の息子と盛長の娘が婚姻してから、ほぼ同族のように振舞っていきますからこのパワーゲームのリングにはたたず、義時とともに審判のような立場でい続けるのではなかろうかと思います。
まさに15話で示された残酷なルール、「一番になると領土解体。しかし生き残るには力が必要」が頼朝の裁定のもとで「誰をも一番にしない」という形で安定的に運用されていた体制が崩れ、全面的かつ無差別に適用される時代が始まっていきます。でもそのルールの骨子を作ったのは20歳だったころ、八重さんの懐妊がわかってるんるんしていた頃、一番幸せな時期の義時が「みんなでハッピーになるために」と考えた策だから、彼は責任を取らなくてはいけませんね。