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2022年大河ドラマ感想*31・32話

義時がどんどんと悪いやつになっていくなあ、そして泰時がまだまだ未熟だけれどあるかなきかの希望の光だなあ、という31話+32話の感想です

義時と泰時の関係をメインに綴っていきます。

 

 

■実衣ちゃん

源仲章生田斗真さんが濃い演技してました。イヤラシ~~~! ヘイト買いまくって義時の代わりに死にそう。国宝級のイケメンを揃えておきながら、中川大志以外イケメンな使われ方をしていないゲフゲフ全員濃い、いや畠山重忠中川大志もたまにぶっ壊れる時があるというこの大河、笑える。

仲章がどういうキャラかはまだつかめていませんが、全てがいやらしい+鎌倉が命じる子供の殺害には吐き気がする+とはいえ命令を実行する、あたり一筋縄ではいかないようです。

生田斗真くんの狩衣姿を拝むことのできる源仲章ですが、後鳥羽院の側近でありながら、鎌倉幕府にも御家人として仕える人物です。
京都で鎌倉幕府に関わる治安維持活動をしていたようです。今回の頼全処刑もその一環であったようで、「比企が命じた」と北条家の面々が恐れるのは、すでに比企と幕府が一体化している(ように北条には見える)ことのほのめかしです。何回か繰り返し見ると、「北条家は比企と頼家にクーデターを起こす」のだと、よくわかります。

さて、仲章さんは今回子供を惨殺します。全成と実衣の息子・頼全です。

史実上では頼全の母に諸説あるようですが、この作品では実衣の子として描かれています。実はこの数話前、実衣が頼全からの手紙を読んで、

「可愛い子には旅をさせるものですね」

と笑っていました。

それがこのフラグだとは……。

「この子達は私のそばにいるの。手放したりするものですか。お断りします」

可愛い子に旅をさせたら殺された。

「あちらへ……」
「いかせません!」
「比企の手には決して渡しません」

親族でさえ信じられなくなっている実衣ちゃん。それを汲み取れる重忠ってイケメンすぎない?

「すぐにでも比企を攻め滅ぼしてください。首をはねて、大きい順に並べるの」
「全成殿もそれを望んでいました」

個人的に実衣は恨みで動いているのではない、と感じました。そこは夫である全成のいいつけを守っているなと。
もし恨みで動いているのであればもう少し冷静なはず。政子のいうとおり、子供達を安全な場所に隠すはずです。そして自分は比企を攻め滅ぼすため、兄のために慣れないながらも懸命に動くのではと。

しかし、実衣ちゃんは動くことができません。
さらに、最も安心できるはずの親族、しかも子供に害をなすはずのない妹でさえ信じられなくなっているということはすでに「母としての本能で子に対する危険物を恐れ、取り除きたがっている」ということではなかろうかと。
災害で子供を亡くした母が、その災害の元を異様なほど恐れるように。

実衣は夫と子供をきょうだいの中で最も残酷な形で失いました。しかも、いつも仲が良く、本当に愛し合っていた夫をあんな形で亡くし、可愛がっていた子をあんな形で亡くしました。穏やかで幸せな家庭が一瞬にして血の海になったのです。
いまの北条家のなかで最も凄惨な境遇なのです。

だから、私は妹に対する政子の言動に配慮がないと感じました。そりゃあああ、もし、以前にもこんな発言を度々していたなら、実衣ちゃんは頼朝の死の時に一回爆発しましたけど、姉に対して不信感や違和感を持つだろうなあ。

「私が出家なんてするわけないでしょう」
「どうして?」
「仏様は結局、全成殿を助けてくれなかった。すがる理由がどこにあるというのです。菩提はとむらいます。でも尼にはなりません」
「それも生き方の一つだ」

「どうして?」じゃないよ政子~~~~!!!!
朴念仁兄貴の気のあった義時の方が実衣の気持ちを理解しているという現状。

なぜこんなに違和感があるんだと思ったら、政子は常に妹に上から目線で命令するばかりで、凄惨な形で夫や子を亡くした実衣を抱きしめたり、撫でたり、妹の気持ちを考えることはないのですよね。御家人のメンタルフォローはできるのに、妹のメンタルフォローができない。で、自分は頼朝を突然失い、頼家に振り向かれない悲劇の妻・母だという仕草をずっとしている。

突然とはいえ夫の死を見送ることができ、息子は生き返った政子に比べて、実衣は見送ることもできずに夫も惨殺、息子も惨殺されました。

その違いを考えてしまいます。これ、静かに実衣の心を蝕んでいっても仕方ないなと。

義時はその点、願成就院に行っている間に八重さんを亡くしたので、「仏様は結局、全成殿を助けてくれなかった」という気持ちが痛いほどわかるはずです。仏様は結局、八重さんを助けてくれなかった。八重さんは高飛車姫ではありますが、子供達をこよなく愛する善人で、全成もまあ変人ではありましたけど善人でした。それを仏様は助けなかった。

観音経のなかにはこう書いてあるのに。

「或漂流巨海 龍魚諸鬼難 念彼観音力 波浪不能没(大海の中を漂流して、龍や怪魚や鬼などに襲われても、観音の救いを念ずれば、波の中に溺れることはない)」
「或遭王難苦 臨刑欲寿終 念彼観音力 刀尋段段壊(王に捕えられ、刑場で処刑されそうになっても、観音の救いを念ずれば、刀がばらばらに折れてしまう)」

八重さんと全成の死は「観音経(妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈)」をベースにされているのでは? と思うのですが、これから北条の関連する人が死ぬ時、観音経ベースに亡くなってたらちょっと私がワクワクします。というか感動?で泣いちゃう。

義時と実衣の絶望には、まさに愛する人、しかも仏の慈悲の具現のごとき人がお経の文字通りに亡くなったのだから、経を唱えようと出家しようと「仏の救いを感じられない」というのがあるのだと思います。実際お経で言われているのはたとえであり、いかなる苦難があろうとも観音が救ってくれるということです。そこは彼らもわかってはいるでしょうが、大好きな人や善人がひどい形で死に、自分も手を汚さざるを得ないような世の中で、何に救いを求めればいいのでしょう。

まさに末法、鎌倉仏教が出てくる直前の人々の気持ちを表しているような気がします。そこで出てくるのが法然親鸞であり、明恵であり、道元であり……なのでしょう。

ちなみに義時の子・泰時は華厳宗中興の祖と呼ばれる明恵に帰依していて、「ラブレターか?」というほど愛()に溢れた手紙を送っています。

政子はまだそこまでの絶望と修羅場には巡り合ってないので、軽率に妹に出家をすすめるんだろうなあ、と思いました。弟妹ほどこの世界に絶望していないし、弟妹ほど大事なものを守るために「手を汚す」覚悟はできていない。

ちなみに観音経は少し前の大河「おんな城主直虎」で主人公が歌ってました。素敵だった。

 

■やっくんの従順な顔も3度までなの?

おお。鎌倉唯一の希望・泰時が父親の悪行にとうとうブチ切れました。

テイク1

「母上を利用されたのですか?」
「あれは比企の館に出入りできる」
「母上の気持ちも考えてあげてください。あの方に、比企を裏切るようなことをさせて、どうして平気でいられるのですか?」
「何を怒っておる」
「父上がわかりません」
「待て」
「父上はどうかされております!」

テイク2

「父上は一幡様を! なぜです?」
「武士とは、そういうものだ」
「こんなのはおかしい」
「これでよかったのだ」
「父上はおかしい!」

キレてくれると思ってた!!!

従順な息子、最愛の息子であり、常に囲ってきた泰時の思わぬ反抗に義時も感情をあらわにし、テイク1(31話)ではひどくため息をつき、テイク2(32話)ではものすごい勢いで泰時を殴っています。

母親があんな死に方をしたせいか、泰時には義時はほとんど傍から離すこともなく、父でありながら母のような愛情も注いできました。実は31話では泰時に弟が二人もいたことが(比奈ちゃんの子。朝時、重時)発覚するのですが、義時と次男・三男のかかわりは、長男・金剛とのそれほど濃密ではなさそうです。だいたいすでにあんなに大きいのに義時との絡みがないことで察しが……。

さて、泰時はいきなりキレているわけではありません。いずれも義時が前に何度か泰時の不信感・地雷を踏んでいるからキレているのだと坂口くんの表情からわかります。

31話

比企能員おじさんに紙をビリビリに破られた時、泰時の前に破片を投げて「片付けろ」という
※たぶん泰時は父からこういうぞんざいな扱いをされたことがなかったと思います。いや、義時自身、息子とはいえ他人にこんなぞんざいな扱いをしたことがないような。
②「大義名分がたった、比企を滅ぼす」と言う
※父の美点は全ての御家人をつなぐ存在だと思っていた泰時にとって、衝撃的かつ恐ろしい一言だったと思います。父上、どうかしてしまったのでしょうかね。
③「戦になったら、真っ先に一幡様を殺せ」「母親共々」
泰時は目の前で母親を亡くしていることを考えると、ここら辺が、泰時の地雷だったと思います。泰時は痙攣するように震えてしまいます。面白かったのが、このとき、全く納得がいっていない時の八重さんと同じ表情をしていたこと。
④比奈を利用し始める。
※泰時からすると、いきなり割り込んできたお姉さんだったとはいえ義母と良好な関係であり、平穏な家庭を父がめちゃくちゃにしていることに、今までの積み重ねで憤りをおぼえても仕方ないと思います。この直前に比奈ちゃんに「父上は変わられましたか?」と聞いてるあたり、相当積み重なってるんだなあと思いました。ふたたび、全く納得がいっていない時の八重さんと同じ表情をしています。母子で似てるなあ。

→大爆発

 

テイク2

かなり複雑に入り組んでいます。
①一幡を生かしていることを告げられた際、殺すと言わずに殺したこと、頼家を鎌倉殿として立てる意志が義時にまったく無い、むしろ頼家を排斥する気だとわかってしまったこと
②仁田殿の死
※おそらく。彼を自死させたのは父が作り出したといって過言では無い、北条と頼家の対立状態です。
③一幡様案件
※このとき、①に気づいてしまったのでしょう。父上本当におかしいよな。

→大爆発

 

やっくん(泰時)の従順な顔も3度くらいまで……!!

さて、急激に変貌する父の姿に泰時の精神がかなり磨耗しているようです。すでに理路整然と父の非を責め立てることが難しくなっており、「父上はおかしい」と叫んでいますし、次週では「承服できません」と絶叫し、「あれは、私なんだ」と悟ったかのように意味深なことを言っています。

しかも泰時はこの後、史料上でもものすごく活躍するかというと停滞期に入りそうなのです。妻の初こと矢部禅尼とも離婚させられます。史料上で泰時が復活?するのはこのほぼ十年後、三十歳くらいになってからです。

 

さて、気になったのは。

「母上の気持ちも考えてあげてください。あの方に、比企を裏切るようなことをさせて、どうして平気でいられるのですか?」

の泰時の女性のような声音。特に「どうして」のあたり、坂口健太郎くんはよく声が裏返らないなあ。いつもの泰時の声ではないような気がする、と思って今までの録画を辿ると八重さんにそっくり。母を重ねてきているんでしょう。
しかも、「母上の気持ちも考えてあげてください」、これは人の気持ちを考えろという八重さんの教えそのまま。

なんだか八重さんが息子の体に乗り移って、

「比奈さんを利用したのですか?」
「比奈さんの気持ちも考えてあげてください。あの方に、比企を裏切るようなことをさせて、どうして平気でいられるのですか?」
「小四郎殿はどうかされております!」

と言わせたかのようにも見えます。八重さんの台詞としても違和感ない。

 

■朝時と重時

突然ですが義時に息子がもう二人いたことが発覚しました。

北条朝時北条重時となる男子です。泰時にはこの時点で弟二人と妹一人がいます。朝時、重時、竹殿といいます。竹殿は出てこないのでしょうが、朝時と重時は泰時の人生に大きな影響を与えますし、また泰時も彼らの人生に大きな影響を与えます。

……実は朝時・重時以外にも、泰時には弟がいるのですがね。この時点で。北条有時。

義時が浮気して作った子。まあ義時主役の大河だし存在は抹消されたでしょう……が、今回の義時の様子を見ていると影でこっそり作っていてもおかしくはないかもしれない(笑)

むしろ比奈ちゃんを「あれ」とモノ呼ばわりするに至るには浮気が……。

 

剣の稽古をしているまだ幼い二人を見る比奈ちゃんが切ないなあ。

さて、実衣ちゃんが二人にどういう風にアレしてくるか不安でたまりませんが、重時はまだしも(史料がないので)、朝時は実朝の女房に夜這いして処罰されて義時から勘当されています。
そこに実朝の乳母である実衣ちゃんが関わる素地があるわけで、うーん……地獄の薫り。