Don't mistake sugar for salt.

読んだ本や思ったことの記録

2022年大河ドラマ感想 閑話休題

思い余ってTwitterのアカウントを消してしまいました。

本来ならば12月31日ないしは総集編の放送を見てから消す予定だったのですが、ちとばかし予定を早めました。

一番は私生活が多忙になったので日曜夜に騒いでいられる時間がなくなったことなのですが……(実際騒ぎすぎて月曜日に響いてしまったこともありますしw)

二番は義時の本格的な活躍・そして実朝暗殺に向けてのTLの雰囲気に耐えられなくなったということが挙げられるでしょう。誹謗中傷や怒り、史実との違いを指摘する声が多すぎる。
皆さんが物語を愛しているからこそのものだと耐えてはきたのですが、

歴史オタク、物語に突っ込むのはいずれ黒歴史になって恥ずかしいからやめて!!!!

という物騒な言葉も浮かんでしまい、実際TLで発する前にアカウントを消した次第です。

私は歴史オタクが「物語を楽しめなくなってしまう」現象をたくさん見てきました。あそこが史実と違う、そこが違う、やれああだこうだ……、私にも覚えがあります。
正直ここまで突っ込むなら学者の書いた本読んでたほうがラクだわ……。だって史実に忠実だもん、と。
そしてだいじなもの、物語として伝えたかったものを取りこぼしていきました。黒歴史です。あれ、この小説は何が言いたいんだっけ……。

黒歴史〜〜〜〜〜〜ふぅ〜〜〜!!!
歴史にズブズブのときはわからなかったんですが、何って自分は恥ずかしいことをしてたんだろう……傍目に見てかわいそうなイキリオタクのテンプレ〜〜〜〜〜〜〜!!!!妄想(物語)と現実(史実)の区別のつかない恥ずかしい人〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!

だから、この大河を見るときに決意したのです。物語にイキリ歴史オタクとして突っ込む恥ずかしい自分を封印しよう!その結果生まれたのが「もも」というアカウントだったのですが。
でも、かつての自分の亜種がTLにわらわらと湧いてきたとき、私は自分も元に戻りそうな気がして正気でいられる気がしなかったので、消すことにしました。

 

まあ、でもわからなくはないです。最近の鎌倉殿は吾妻鑑から飛翔し、新しい境地に入っている感じなので、歴史オタクとしては「戻ってこい! 正気に戻れ!!」と言う感じなのでしょうね。

でも物語としてはクライマックスにブーストかけてきたなというか、北条義時という誰よりも悲劇の人の人生を見送らなければという決意を新たにしたというか。

この物語は、「悲劇」なのだなとはっきりわかってきた印象です。
悲劇の人生と言われる源義経畠山重忠は「死ねました」。でもそれよりはるかに悲劇的な人生は地獄の中で生き続け、苦しみ続けることです。
鎌倉という地獄の中で北条義時は生き続けてしまいました。
伊豆の田舎に暮らす少しばかり頭の回転の早い、歴史書に残らないほど平凡な豪族だったのに。ただ姉の結婚相手が源頼朝だったというだけなのに。権力を手にしても事実上日本の支配者となっても、血で血を洗う世界で様々な人物の死に関わりながらも「生きのびてしまった」。それを悲劇と言わず何というのか。製作陣は吾妻鑑からそこを強く感じたのでしょうね。

だからこそ、悲劇の人生といわれた義経や重忠の死に義時を立ち会わせたのでしょうね。しかしながら義時はこいつらが死んだ分だけ生きねばならない、地獄をと。

その誰よりも悲しい人生を救済するのが鎌倉幕府の政治、日本の政治のあり方を根本的に変えた北条泰時、という結末に持って行くのかなと推察しています。

泰時はのちの名君の名にそぐわず、物語の中ではやることなすことポンコツ、愚直です。ただ、公平な視点を持ち洞察力に優れ、争いごとを丸く収めるという不思議な力があるだけで、聡明さで言えば義時の方が遥かに上。
義時は知恵の輪を二秒で解けるけど泰時は知恵の輪に十日かかっても苦戦していて困っているのを鶴丸や初が解いてあげるようなキャラです。
この醜い世界で、稚拙ながらも善を信じて生きていて、「北条泰時」という言葉から連想するダンブルドアみたいな知的で聡明なキャラより、愚直なネビル・ロングボトムのような印象を受けます。

義時が自分の人生を大いに反省するとしたら、「聡明すぎて愚直さがなかったところ」なのですよね。聡明すぎてあまりに自分や周りを大事にできなかった。
上総介の件も義村が指摘するように義時が半ば諦めてしまっていた。義高を殺して姪の大姫を死ぬまで苦しめた。八重さんの件も義村を責め抜けばすっきりしただろうに、納得してしまった。自分を育て上げてくれた頼朝に忠誠を捧げつつも「信じること」がなく、恩ある頼朝の孤独を強めてしまった。
比企の娘を妻にもらっていながら比企能員の野望を最悪の形で刺激してしまった。
ついには頼朝の代わりに育てていくはずだった頼家を手にかけた。
父に逆らいきれず、親友を殺した。
さらには父を追放した。
しまいには最愛の姉である政子を大事なところでないがしろにしつづけ、ついには彼女の不信を買っている。
新しい妻・のえさんは北条の家風には徹底的に合わない人です。北条家は明朗で家族に愛情深く、真面目な働き者という家風ですが、のえさんは二面性のある性格で享楽的でものぐさで夫に愛情はありません。
だからこそ、泰時や政子や実衣をはじめ、北条家のすべての人間に不快感を与えます。りくの助言、「無理に合わせようとしないこと」が一切響かず、まだ猫をかぶっています。

いま義時の手のひらに残っているのは泰時と、あきらかに夫の死で狂い、死か名誉かを渇望している実衣、めんどうくさい義村しかいません。全て虚無。

自分の人生に対する大きな絶望の中で、泰時の愚かさと素直さを尊いものと感じているのでしょうね。
どれだけ自分が汚れてもいいから、せめて最愛の息子だけは自分のように地獄を見ることになるのは勘弁してほしい、という義時の悲鳴が最近は聞こえてくるのですよね……。

おかげで和田一族も滅びたしな……。
だから無意識に泰時をないがしろにし続ける(義時の地雷を踏みまくる)仲章には私はひやひやしています。しかも義時の目の前でやらかすから仲章って本当にツイてない。

アルティメット子煩悩執権に目をつけられたせいで名誉欲の塊の仲章は一番自分の望まない形(=実朝のモブ系の控えめな性格の側近だった)で葬られてしまいますね。ついてない!!!かわいそう!!生田斗真の顔面を持っているのに!!!

 

個人的に気になっているのが、この鎌倉のなかでの北条家最大の被害者というべき実衣ちゃんです。和田合戦の時。

「こんどこそ、死ぬ!」
「落ち着きなさい」

「決して離れないように」
「こんどこそ、……死ぬ」

ここであまりにかわいそうになりました。もう実衣ちゃんはこの鎌倉という世界に耐えきれずに精神が静かに壊れていっているのだなと。
実衣ちゃんは満面のこわばった笑みで「今度こそ死ぬ」と非常に嬉しそうに言っています。
死んで全成のところへ逝きたいのか。いや、最愛の男性のいる極楽浄土に行きたいのではなくて、最愛の男性を奪い、優しかった兄も変貌していくこの残酷な世界を生きていたくないのもしれません。ただ昔と変わらぬ姿を少しだけ見せる姉が唯一この世界で完全に狂気にならずに済んでいる理由なのかも。

43話で強くそう思いました。少女のように桜を片手にはしゃぎ回る姿を見て。

「実衣殿、今日はとっても生き生きされていますね」
「なんでしょうね。姉上がいないだけでこんなにのびのびできるなんて……。私もびっくり! あははははは!」

でもそのあと、表情を少し暗くした後、

「少し休みます」
「ごゆっくり!」

この休んでいる最中、実衣ちゃんは桜を片手に廃人のようになっていたかも。
兄の新しい妻は実衣の細かい心情を受け取ることがなく、「面倒でどこかおかしい上の人」として扱っているのが見え見えなのも彼女を傷つけたのかも。
政子がいないと彼女はもうダメなのかも。

だから実朝にすがり、華やかな格好をして自分を落ち着けているのでしょう。人間は派手な格好をする時「明るくポジティブになりたい」という意思が働いているといいます。つまり過度に派手な格好をしている実衣ちゃんの心は今、闇……。

政子の「落ち着きなさい」の声が実衣ちゃんの苦しみを端的に現しているように感じました。妹の苦しみをわかっているのは政子だけかも……( i _ i )

和田合戦で死ねず、生き延びてしまった実衣ちゃん……。「どう見たって動くわけのない船」を作り、「(事実上の)孫を見せてくれない」(=危ない橋を渡り続ける)実朝を見て、これほどお守りしているのに、どうして自ら誰かに殺されるようなことをするのだろうと、裏切られたと感じただろう実衣ちゃん……。
いきなり自分の子である時元を鎌倉殿にと考えたのは、ここら辺に理由があるのかもしれません。

また、実衣ちゃんが頼る先はおそらくきょうだいのなかでは最愛の兄なのだろう義時なのだなとも思いました。
義時の政子好きっぷり(シスコンぶり)も際立っていますが、実衣ちゃんは義時が本当に好きですよね。あれほどまでに義時を後継者と推している妹、だいたい困った時は義時を頼りにする妹は、ブラコンといって差し支えないと思います。
義時も実衣ちゃんを「困ったやつだが」「凄くかわいいんだよな」と感じているような印象を受けます。実衣ちゃんがかわいい仕草しているときにかすかにまなじりが緩んでしまう義時が好きです🤗
彼女が傷ついて笑いながら涙を流したら比企一族が滅んだわけだし……。少なくとも当時の妻の比奈ちゃんより愛していたということになるでしょうね……。

43話では実衣ちゃんは義村と殴り合っていましたが、あのアルティメット子煩悩極悪執権()の表情をあそこまで点目にさせることができるのは「かわいい妹」のなせる技だと思います。
というか伊豆時代から「かわらない」のがこの3人の関係なのが悲しい。
女好きの義村は義時の姉妹である政子と実衣ちゃんには何故か絶対ちょっかいをかけないのですが(義時に殺されるからではと思ってる)、親友の怖い姉であった政子との関係は有力御家人と尼御台へと変化しているにもかかわらず、実衣ちゃんと義村は決して変わらない関係ですよね。伊豆時代とおなじようなことをしています。
恋愛小説だったら「義村の本命は実衣ちゃん」ということになるのですが……まさか!そんな……!!でもだったら楽しい気がします。義村の本音に迫れそう。

でも次回実朝も時元も惨殺されてしまうだろうから、実衣ちゃんと義時がどうなるかが不安です。

本当は実朝のあまりに八方塞がりすぎる初恋(にしておそらく唯一の恋)の話もめもしたかったのですが、お腹を壊しているのでこの辺で。