Don't mistake sugar for salt.

読んだ本や思ったことの記録

白銀の墟 玄の月を読んだ⑤そういえば泰麒って麒麟だった

 寒すぎて凍えそうです。

白銀の墟 玄の月を読みおわりました。よかった。

新潮文庫の担当編集の人すごいよな。十九年近く出てなかった長編をついに出させて、しかも完結させて。

あの、あの、いろいろ死んだ人や生死不明の人とかがいて、辛い……とおもったのですけれど(特に飛燕ぉぉぉお!!!!!!!ぁぁーーーーーー!!!)、作者の小野先生の「生きて返す! この船に乗れ!」という強い気概が感じられました。

私の予想以上にみんな生きていました。(個人的に前の記事で正頼と英章を生きていると仮定していましたが、かなり絶望視していました。霜元様も生きてない……と思ってました)

そうだそうだ、驍宗と泰麒が生き残っても、戴の人材を生き残らせなきゃ意味がない……!
そうだったよ小野先生と新潮文庫の担当編集の人……

 

 

3、4巻読んでて気づいたのは「泰麒のこの忠誠心、犬レベルなのでは?しっぽついてるでしょ」「そうだ犬ならご主人様じゃない人間に噛み付く……、がるるるする」「あぁぁーーーー!!驍宗様にめっちゃくちゃ懐いてる泰麒可愛すぎる!?何この犬!そうだった!こいつしっぽある、獣だった!そういえば」です。

そうだ、この泰麒、男子高校生の皮を被った馬と鹿の間の何か謎の神獣でした。

 

◆しっぽついてるでしょ

泰麒の驍宗様への凄まじい忠誠心がなかったら、大変なことになっていたと思います。

なんでこんなに驍宗様に忠誠心高いのこの生き物!?
すごい警戒心が強いし、主君以外の人間に従えないし、なんだこれ!
寝るとき驍宗様の着物を背中にこすりつけながら寝てる感じしかしない!しっぽあるでしょ!?
人間にしては愛が深すぎる……??なんだこれ、そうか、この男の子、しっぽついてる、……麒麟だ。

でした。1〜2巻まで、泰麒は嘘をつく、はったりをいう、急に出ていくなど、「DKだな」としか思えなかったのですが、3〜4巻では、泰麒の獣としての本性ががっちがちに出ていた気がします。
個人的には、「麒麟とかけ離れた」冷静な思考も様々な偽装も、半分人間だからというより、主人が危機に陥っている獣で、警戒心を非常に高めているだからと考えた方が納得がいきます。
飼っているとわかるんですけど、犬も保身や飼い主のために嘘をつきます(バレバレなところが可愛いんですけど)。犬より知的レベルがはるかに高い麒麟なら……察しがつくというものです。
徹底的に他人を信用しない姿勢は、社会生活を営む人間というより、群れずに一匹で行動していて、主君にしか心を開かない、馬と鹿の間のような形を持ち一本の角を持つ「麒麟」という動物が、人間のフリをしているから、というほうが説明がつく気が。

 それにしても、凄まじく一途で愛情深い個体だからこそやれたのことなのかもしれないです。 他の麒麟ならできただろうか。本当に、自害するか、とっとと驍宗様を捨てて別の王を選んでたかもしれない。
普段そういうことを嫌う麒麟を徹底的に追い詰め、嘘をつくよう仕向け、罪科のない王を処刑しようとして、剣を取らせてしまうという最悪の事態を招いてしまった戴という国の業の深さよ……

李斎のいう通り、「だったら戴の民も責めてくれ」なんだよなぁ……。麒麟と王がいないというのに、6年間、「こんな理由で……?」というくだらない*1理由で暴君(行動原理を見るに暗君、愚君というべきか)の専制を許した戴の民の悔しさはいかほどだろう。もともと民と神仙・神獣とが支えあって成立するこの世界で、麒麟ばかりに背負ってもらっちゃ戴の民の立つ瀬がない……。

泰麒の行動を見るにつけ、汕子のことを思い出してました。あまり一緒にいられなかったと悲しがっていたけど、汕子、あんたが育てた麒麟だよこの麒麟は。あんたと同じことしてる。

◆可愛い!!すりすり!

驍宗様に首をすりすりする泰麒が可愛いです!もちろん獣形です。獣形だからこそ感じる可愛さ。

驍宗選んだ時も獣形になったことを思い出しました。あの時も驍宗様との離れ難さに獣形になってましたが、今回も、驍宗様に肯定されて「もぉ〜!主上のそういうところ、好き♡」と言わんばかりに獣形になってました。

あの時、「いいのだろうか」と疑問に思っていた王を、「やっぱり良くなかった」というレベルの深刻な内乱を経て、また「この王がいいんだ」という自らの意志で選び直す、という構成の妙を感じました。
でも、一番感じたのはですね。泰麒は主君に対する愛情がなんらかの値を超えると融けて獣形になっちゃうんじゃないかと思うんですよね!

 

泰麒を獣形にするには、驍宗様がめちゃくちゃデレて、泰麒を「も〜〜!!好き♡」ってデレデレな状態にさせればいいんじゃないんですかね!

◆泰麒「景台輔!私も!!主上に騎乗される喜び!!感じました!」

「月の影影の海」と「風の万里黎明の空」の再現がすごかった。

月の影〜では王の陽子が捕縛された麒麟の景麒を助けに行ったけど、白銀〜では、麒麟の泰麒が捕縛された王の驍宗を助けに行きました。
なんとなく王と麒麟の関係にフェアなものを感じました。

風の万里〜で、景麒の背中に陽子が乗っていましたが、白銀〜でも、泰麒の背中に驍宗様が乗ってました。泣きました。
正直泰麒が落っこちちゃったの「驍宗様に乗られちゃった……うふふうふふ♡はぁ〜(幸せすぎて気絶)」なんじゃないかと一瞬思った

いや〜泰麒が転変した時も泣いたけど、驍宗様が泰麒の上に乗った時も泣いたな……
なんだか変態な言い方だな……驍宗様が泰麒に騎乗した時か……いや、これも変態な言い方だな……私の心が汚れてるんだな

女子高生の陽子と、二十代後半の外見をしている景麒と違って、十代半ばの泰麒と歴戦の武人の驍宗という体格差が逆で、人型の時は決して泰麒は驍宗を持ち上げられないだろう二人なので、余計泣きました。あなたの為ならどんな不可能なこともできる……感が強すぎる

陽子は景麒に乗って、自分を見くびって不正をする臣下を戒めたけど、驍宗は泰麒に乗って、次々と臣下に声をかけて、味方を励ましていくんですよね……どちらも王だ。

麒麟の獣形という絶対の説得力を得てなお、さらに凄まじいカリスマ性を発揮する。王だ……泰王のご帰還じゃーーー!!!

 

泰麒はもう雛から成獣して外見年齢が十代半ばになってしまったので残念ながら驍宗様に抱きあげられる機会があるのかは不明ですけどね……抱き上げそうだけどな……

いや、今読み返してみたらどう考えても驍宗様、転化後の泰麒を抱きかかえて計都に乗ってるんじゃない?って描写があった 
あっこれは雛の時と同じようにひょいひょい抱き上げるわ

もうこの主従末長く御幸せに……って思ったら最後の挿絵でもう確約されてた!

何もいうことがない……もくもくと泰麒(蒿里)と驍宗様(+正頼込み)の、今までの波乱とは真逆ののんびりした養生ライフを妄想しつつ寝ます!

 

 

 

*1:個人的には、とってもエモかったんだけど、全体を通じてみると、阿選の謀反理由が、戴の民の犠牲、泰麒のリアルに血涙出すレベルの苦労、驍宗をはじめ、李斎など戴の上層部の失ったものと比べてくだらなさすぎて……。個人に対するいわゆる「嫉妬」「執着」で、生まれなかった命、荒廃した土地、妖魔によって魂を抜かれ人格を壊された人々、殺されてしまった人々……、そして血に穢された麒麟……。十二国の世界での「謀反」って大概そういうものだとわかっているけれども……。

白銀の墟 玄の月を読んだ④あーーー!ありがとうございましたーーー!!!

ありがとうございました!!!!!!!!!!!!

 

 一週間前に読み終わってたんですけど

 それしか言えないので

もうダメなんです

 

十二国記……うううありがとう!!!!!

 

光の主従を見せられた。

 

 

というわけで感想をあとで語ります。

 

 

 

白銀の墟 玄の月を読んだ③細々メモ

寒いですね。寒いです。帯を読んだら来月公開予定の3〜4巻は「数奇な運命をたどる「泰麒」の謎がついに明かされる!」という、「ちょっとこれ以上、この子いじめるのやめてくれない!!」というキャッチコピーだそうです。

個人的には麒麟であって麒麟でないという泰麒の状態が戴国の主要メンツに知れ渡るのかなと思いますが、エグい展開はやめてほしい。みんなで泰麒の角を生やすために清浄な戴に戻そうって決意する話だったらいいなぁ〜。

思えばこの麒麟は生まれた時から異国に飛ばされ、その異国では居場所がなく、戻ってきた時は麒麟としての能力をほとんど忘れ、ようやく思い出して王を選定できたと思ったら、その王はたったの半年で行方不明になり、また異国に飛ばされてそこで麒麟の性質ゆえに恨みを買い、呪詛をえて病み、帰ってきた国は荒廃していた、という苦労人(麒麟)です。

ただ、十二国記の法則として、苦労したらした分だけ成長できるという法則があるようです。麒麟も同様。
泰麒に負けず劣らず苦労してる延麒も名麒麟ですし、自分のせいで国中の女が追放されるという「自分が国を滅ぼしてるのか……」的な目にあった景麒も名麒麟の素質が出てきましたし、稀代の名麒麟(だと思ってる)廉麟も苦労してそうだしなぁ〜

泰麒が成長し、廉麟を越す名麒麟になることを願いつつ、以下、疑問に思ったことをメモです。考察ではなく、ネタバレ感想です。

  •  ◆ヤンデレ女子メーカー泰麒
  • ◆驍宗様の成長ストーリーなのかも。
  • ◆裏切った部下の首を必ず取りに行く英章bot
  • ◆6年も拷問受け続ける正頼さん
  • ◆そもそも
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白銀の墟 玄の月を読んだ②ポンコツ化している戴の官吏たち

前の記事はこちらです。スターまでいただいてしまってありがとうございます。

いきなり寒くなってきました。布団を急いで冬布団に変えました。

 思うところが溜まってきたため、感想を続けようかなと思います。

 

ネタバレを壮絶にしておりますので続きにしまっておきますね。

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白銀の墟 玄の月1・2を読んだ①麒麟が謀りごとをするとき

 こんな台風の惨禍のなか、研修に近い出張のために、直帰できたので本屋さんへ行った。

ミーハーだからよう!十二国記の最新刊を買うためによう!

説明しよう!「十二国記」とは、古代中国風の、国が12個ある異世界で繰り広げられる硬派で上質なファンタジー本なのである。主人公は事実上二人いて、双方とも日本の高校生。
一人は中嶋陽子ちゃん。赤毛に悩む気弱な女の子。その子は、例の十二の国のうち、東にある「慶」という国の王様に選ばれ、この異世界へ飛ばされて、壮絶な苦労を経て玉座に就きます。じゃあどうやって陽子は王様に選ばれたのかといえば、前王の血族だったからでもなんでもなく、十二の国にそれぞれ王様を補佐し天の意向を汲み取る神獣・麒麟というのがいるのですが、そいつが選ぶのです。
その麒麟は獣のくせに人型をとり、うっかり日本の男子高校生をやっていたりすることもあります。それが今回の主人公(?)、泰麒。日本では高里要くんと呼ばれていました。で、彼は十二の国のうち東北の戴という国の麒麟なのですが、選んだはずの最愛の王様は半年で行方不明になり、本人はクーデターで傷つけられ、記憶を喪失して日本へ逆に飛ばされてしまいました*1
このときの高里くんのDKライフを書いたのが「魔性の子」という、このシリーズでいうエピソード0のような作品です。

 

で、王様と麒麟が行方不明になり、戴国が荒れていることを嘆いた忠義の将軍が、行方不明になった泰麒の捜索を、慶の王様として地道に成長しつつある陽子と行うのが、今までの長編最新作「黄昏の岸 暁の天」。
けれど、それ以降びっくりすることに十八年も長編の新作が出てませんでした。「黄金の岸 暁の天」は、「魔性の子」の時間軸に回帰した作品である上、数奇な運命を歩んできた主人公二人(陽子と泰麒)の道行が重なった話でもあるので、作者の方は、「黄金の岸 暁の天」で完結したい、というご存念だったのかもしれません。
彼らの未来は自分で考えてくれ、という、余白のあるラストでした。

ただ、逆にいえば、あまりに「黄金の岸 暁の天」が続き物のような終わり方であり、読者としては気になります。私は「この後どうなったんだーー!!」と頭をかきむしり布団にジッタンバッタンし半日動けなくなるという深刻な症状が出るので、なんど十二国記シリーズを本屋に売っ払おうとしたか。

うっぱらわなくてよかった。新刊が出るって聞いて。

 

 

 

以下、十二国記シリーズを読んだことある人ならわかる、壮絶なネタバレを含みます。全てが「戴の人は幸せになる」という希望的観測のもと書いています。

続きを読むにしまっておきます。

*1:もともと彼自身、日本で生まれ、かの異世界へ連れ戻された過去があります。あちらとこちらを行ったり来たりしてる苦労の多い麒麟です

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